収用制度の概要
収用制度とは
土地収用制度とは
公共の利益となる事業(公共事業)のために、事業用地の取得が必要となることがあります。このような場合、原則として、任意による売買契約により、土地を取得(任意買収)しています。
しかし、任意買収は、権利者である相手方の同意が必要なので、相手方が同意しない場合には、事業が進まなくなります。
そこで、公共事業のためにどうしても土地を取得しなければならない場合に、土地収用法により、権利者の意思に関わりなく、土地を取得させる土地収用制度が設けられています。
東京都収用委員会は、まちづくりを行う起業者や土地所有者などの権利者の方々が収用制度を活用することにより、早期の問題解決につながるよう、迅速な事件処理に努め、申請から収用裁決まで、多数の権利者がかかわる事件等を除いた一般的な事件においては、10か月以内での処理を目指しています。
日本国憲法第29条は、私有財産制度を保障する一方、公共の福祉のために、正当な補償の下に、私有財産を用いることができると定めていますが、土地収用法は、この日本国憲法第29条の規定を受けて、権利者の意思に関わりなく、土地を収用できる要件とその手続き、損失の補償などについて定めています。
《解説》 収用制度は、どんなところで活用されているの?
《解説》 収用制度は、どんなまちづくりに活用されているの?
収用委員会とは
土地収用法により、各都道府県に収用委員会が置かれています。収用委員会は、公共の利益と私有財産との調整を図るために、公正中立な立場で判断する権能を与えられた行政委員会です。
収用委員会の委員は、法律・経済・行政に関して経験と知識を有する者の中から、都道府県議会の同意を得て、都道府県知事が任命する7人の委員より構成されます。
委員は、都道府県知事により任命されますが、収用委員会は、都道府県知事や都道府県議会等の機関から、独立して職務を行います。
補償について
土地収用法は、正当な補償を前提として、土地の収用を認めていますので、収用委員会の裁決は、補償が重要なテーマとなります。
損失の補償は、原則として金銭で、各人別に行います。次のように「土地に関する補償」と「明渡しに関する補償」に分けられます。補償の基準は、土地収用法88条の2に基づく細目政令により、定められています。
土地に関する補償 | ○ 土地補償 ○ 借地権などの権利消滅補償 ○ 残地補償 |
明渡しに関する補償 | ○ 移転料の補償 (建物を移転する費用の補償など) ○ 通常受ける損失の補償 (引越しに要する費用の補償など) |
土地に関する補償
土地補償
収用する土地の対価にあたる補償です。近傍の類似した土地の取引価格などを考慮して算定します。
算定にあたっての基準日は、事業認定の告示日です。補償額は、この基準日時点の土地価格に、裁決の時までの物価変動に応じた修正率を乗じた額となります。
《土地収用法71条》

【ちょっと解説】 都市計画事業の場合
都市計画事業における土地補償の基準日については、事業認可の告示日が事業認定の告示日とみなされます。
ただし、事業に長期間要することから、裁決申請をしないまま1年を経過すると、自動的に1年後のその時点が事業認定の告示日とみなされることになります。事業期間が終了するまでそれが繰り返されます。
《都市計画法71条》
土地の一部が収用されると、残地が生じます。このとき、残地の価格が下がるなど、損失が生じる場合には、元の価格との差額が補償されます。
残地に借地権などの権利がある場合も同様です。
《土地収用法74条》
借地権などの権利消滅補償
収用により、借地権などの所有権以外の権利は消滅します。そのため、その権利に対する額が補償されます。権利の取引価格や契約内容、収益性などを考慮して算定します。
抵当権などの補償は、個別に見積もることが難しいので、通常、土地所有者など担保権を設定している者の補償に含めます。
《土地収用法71条、69条》
残地補償、残借地権補償
土地の一部が収用されると、残地が生じます。このとき、残地の価格が下がるなど、損失が生じる場合には、元の価格との差額が補償されます。
残地に借地権などの権利がある場合も同様です。
《土地収用法74条》
【ちょっと解説】 替地による補償
代替地のような現物により補償することです。金銭補償では替地の取得が難しく、従前の生活が維持できないなど特別の事情がないと、認められません。
《土地収用法82条》
明渡しに関する補償
移転料の補償
収用する土地に建物などの物件がある場合、通常、これを移転するための費用が補償されます。この費用は、客観的かつ合理的に、移転先と移転方法を想定して算定します。次のような補償があります。
《土地収用法77条》
○建物補償
建物を移転するための費用です。移転先(敷地内または敷地外)、移転方法(除却、改造、再築など)を認定の上、算定します。
○工作物補償
塀、門扉など建物以外の物件を移転するための費用です。なお、移転ができない工作物は新設費を基に補償します。
○立竹木補償
庭木などの樹木を移植するための費用です。なお、伐採が相当と認められる場合には、伐採費を補償します。

通常受ける損失の補償
移転料の補償のほか、土地が収用されることにより、通常、損失が発生すると客観的に認められるものが補償されます。主に次のような補償があります。
《土地収用法88条》
○動産移転補償
引越しに要する費用が補償されます。
○借家人補償
建物の賃借人が家主との契約関係を続けることが難しい場合、同種同等の建物を賃借するのに必要な費用などが補償されます。
○営業休止補償
営業を一時休止する必要がある場合、休業期間中の収益減少額などが補償されます。
○仮住居補償
建物の居住者がいる場合、仮住居に必要な費用などが補償されます。
○家賃減収補償
建物の家主が賃貸している建物を移転し、移転期間中賃料を得ることができない場合、賃料などが補償されます。
○移転雑費補償
新たに土地を取得し、建物を移転する場合、移転先の選定に必要な費用などが補償されます。

【ちょっと解説】 損失補償の制限
事業認定後に、建物などを新築、増築した場合、あらかじめ知事の承認を受けていないかぎり、これについて損失の補償を請求することはできません。
《土地収用法89条》
その他の特別な手続
協議の確認
事業認定の後、裁決申請の前に、任意買収による協議が成立した場合、これに対して、裁決と同一の効果をあたえる制度です。起業者が権利者の同意を得て、収用委員会に申請します。
あっせんと仲裁
土地収用法にある制度ですが、収用とは異なり、事業認定の前に紛争を解決する手段のひとつです。
あっせんは、知事が任命するあっせん委員が当事者間の調整を行い、合意を促すものです。
仲裁は、補償に関する事項に限って、両当事者からの申請を要件として、知事が任命する仲裁委員が仲裁判断(確定判決と同じ効果があります)を行うことで、紛争の解決を図るものです。
両方とも、東京都では財務局が所管しています。